ずきんと、胸の辺りに鈍い痛みが走った。
自分を唯一女として見るこの男の表情を見ていたら、体中がざわつくような、放っておくと泣き出しそうな思いが、体を蠢いた。


これ以上、彼に近づいたらまずい。


頭ではわかっているのに。
今ここで、彼が油断している内に大声をあげれば、彼が逃げるのが早いか、人が来るのが早いか。
少なくとも彼とこうして会話することはなくなるだろうに。

自分の体はそのように動こうとはしない。

やっとの思いで、彼から視線を外して、

「もう行け。誰か人が来ればただではすまされないぞ」

と呟いた。

「また、来ていいか?」

そんな風に聞く彼に、

「来るな」

と返せば、ゼンはリアの髪に優しく触れた。

「来るなって顔、してない」

リアは赤くなって、ゼンの手を振り払った。

「もう行け」

「ああ、じゃあ、またな」

ゼンは笑いながら、窓を開け、出て行った。