どうかしている。
いつもなら、あんな奴すぐに剣で切り捨てるのに。あの男のあまりに飄々(ひょうひょう)とした態度に、それすらできない自分がいる。

私は男。
リアトレーゼン・フィルダーストン。
これからもそうして生き、そうして死ぬ。

それだけが私の存在価値だ。


王女を守り、
いざとなればこの命など
彼女のために捧げよう。


そうだ、女としての私なんて
誰も必要としていないのだから……。


実際、あの男が何を騒ぎたてようが、王家とフィルダーストン家の力でもみ消すことなど容易いだろう。
だが、家の者にこそ、私が女であると暴かれたことを悟られてはいけない。


だから、この時計は返せない。
私を女だと公言しないと誓ったあの男を信じるしかない。

そう思い、リアは懐の懐中時計に手をやった。