猫と君



「ほんとにどうしちゃったのさ?
何をそんなに考え込んでんの?」


いつの間にか
葵が俺の前に立って顔を覗き込んでいる。


「ぇ…」


「何か考え込んでる慧は
ここに深いしわができるんだよね〜」


そう言って俺の眉間に
ぐりぐりと人差し指を当てる。


「いってえよ」


「ぁはは
…あたしはもう大丈夫だよ

『お父さん』も『お母さん』も
世話の焼ける『お兄ちゃん』もいるんだからね」


ズキッ…


苦しい


葵の言葉が深く深く
突き刺さる。


こっちが泣きそうになる。



必死に涙をこらえて
葵のほうへ目を向けると


葵は

背筋を伸ばして赤く染まった夕日を
まっすぐ見つめている。


綺麗だ…と
不意に思った。



半年前にも見た。
綺麗な姿。