イサムは自分に差し出された1万円札を無造作にポケットにねじ込んだ。

一緒に渡された名刺を手に取り、そこに書いてある名前を数秒見つめた後、イサムは右手で握り潰し、ゴミ箱に捨てた。

「大丈夫か、イサム。何もできなくて、俺、俺、」

自分の不甲斐なさを詫びるつもりも、言葉が続かなかった。

「うっ、おえっ」

イサムは突然叫んだかと思うと、口を押えながらトイレに駆け込んでいった。


5分待っても10分待っても戻ってこないイサム。

「メグ、この辺ざっと片付けたら、もう今日帰っていいから。
あと、表の明かり消しといてくれるか」

心配になって僕は、メグに仕事を上がるよう指示して、トイレへと向かった。