「イサムって横浜の駅前の路上で、ギター1本で唄っているんだ。
俺はまだ聞いたことないけど、少しずつ固定ファンも増えてるらしくて、この前も『初めてプレゼントなんか貰っちゃった』って喜んでた。
真梨子の曲、イサムに聞いてもらったらどうだろう?」

予想だにしなかった僕の提案に、真梨子は目をまん丸に見開き、言葉を発することができずにいた。

「イサム君が、歌手に・・・ほんと?」

「その、ほんと。知らなかっただろ?
歌手になることがあいつの夢なんだ。以前は友人と2人でやってたらしくて、デュオっていうのかな。
だけど、その相棒が『将来が不安だから』って普通の会社に就職しちゃったんだって。で、今は一人で唄ってる。
今度イサムを誘うから、一緒に飲もうよ」

真梨子は一瞬複雑な顔をしたあと、すぐにいつもの笑顔に戻って、小さく首を上下させた。