「そう、残念だけど、また今度ね。
夢が叶うまであと一歩。あと少しで、イサム君の30数曲の持ち歌すべてに詩がつけられそうなの。
だから、ごめんね。今週もちょっと、会えないと思うけど・・・」

つまらなそうに話を聞く僕の顔色に、真梨子は気付いたようだった。

「いいよ、僕は。今が頑張り時なんだろう?落ち着いたら、いつでもまた会えるし」


落ち着いたら・・・?

何気なく言った自分の言葉に、はっとした。

その時はもう以前の2人の関係じゃない。

もしイサムが本当に歌手としてデビューすることになったら、真梨子にも脚光が当たるのではないだろうか?

2人がとても遠くに行ってしまう気がした。

いずれにしても、楽しかったあの頃にはもう戻れない。

そのことに真梨子は気付いているの?
僕とのことをどう考えている?

張り裂けそうな胸の想いを告げることができず、時間だけがただ過ぎ去っていった。

一番近くにいて、何もかもを知っているはずの女性が、いつの間にか遠い存在になっていた。