彼を殺すのも僕の仕事だった。


人一倍好奇心の強かった彼の兄は知りすぎてしまったんだ。


このヘブンズ ハウスの裏の顔を。

そして暮羽と言う人間に不信感を抱いてしまった。


何も知らずに表の世界で過ごしていれば死なずにすんだのに。


暮羽さんにとって扱いずらい人間は死の対象になる。


僕は彼の額に銃弾を撃ち込む前にザマァ見ろって思った。


そして同時に少しだけ優越感も抱いていた。

まるで実の親子のような愛情を貰っておきながら、暮羽さんの本当の姿を知って恐れる彼があまりにも愚かだと感じたから。







黙り込んで何も言わない僕に青年は怒りを抑えきれないのか、目を真っ赤にして悔しそうに眉をハの字に歪めた。


「なぜ何も言わない…?俺を見下しているからか?」

青年の言葉に慌てて首を横にふった。


「昔の…君のお兄さんの事を思い出してた」

僕がそう言うと、青年は涙を堪えるように歯をくいしばる。


「俺が引き金を引く前に…兄貴を殺した納得のいく理由を答えろっ」


そんなの…言える訳がない。

…言えば…今度はこの青年を殺さなけれならなくなる。


「理由はいえない」

はっきりとそう言い切る僕に、青年は僕の胸ぐらを掴み床に叩きつけた。


痛みに顔を歪めると、青年は答えを急かすようにより強く銃を突き付けた。



「あんたには6年のブランクがある。みた所平和ボケして前のような絶対的な殺気がない。…今のあんたになら俺は多分勝てるぜ?」



それは…僕を今ここで殺すという事なんだろうか…


「以前の僕は…キミのお兄さんを殺す事に何も躊躇いもなければ人間としてではなく…対象とでしか見て居なかった」


「お前…っ」


「でもっ、今は違うよ。僕には大事な人達がいる。…だからキミの大事な人を奪ってしまった事を本当に悪いと思ってる」

「そんな…そんな薄い謝罪で俺が許すとでも思ってるのかよ…っ?」

引き金を引く指に力が加わるのがわかって青年の腹部を膝で蹴り上げ青年から体を離した。


以前の僕なら自分の命に執着は無かった。


でも今はこんな所で死ぬ訳にはいかない。