必死にノイローとアレジの顔を思い浮かべて部屋の中に入ったのはいいが、扉の前から一歩も動けない。

そんな僕を興味深そうに見つめる男の瞳に恐怖からなのかはわからないが心臓がうるさかった。


暮羽さんは座っていた心地良さそうな椅子から立ち上がるとデスクの前に寄りかかった。




「久し振りだな。…6年振りか?」


立ちすくんで何も言い返さない僕を気に止める風もなく暮羽さんは話続ける。


「可愛くなったじゃないか…拾われた家では可愛がられてる見たいだな。」


その言葉を聞いて漸く口を開ける事が出来た。


「僕はっ…戻り…ません…」

なんとかその言葉だけを口にすると暮羽さんは少し驚いたようだった。


「…いつから俺に意見を言えるようになったんだ?」

怒ってる訳でも咎めようしてる訳でもなく、寧ろ少し嬉しそうに暮羽さんは僕を見た。


驚くのは当然かも知れない。

大抵は‘はい’と‘いいえ’で会話が成り立っていたから。


暮羽さんの問いには答えなかった。



「暮羽さん、…僕には…大好きな家族が出来たんです」


僕がそう言うと暮羽さんは冷ややかな目で僕を見下ろした。


「…家族?そうか…お前は自分を愛してくれる家族が欲しかったんだもんな…?」


嘲るようにそう言い捨てる暮羽さんに奥歯を力一杯噛み締めた。