暮羽さんがこの棟に足を運ぶのは僕を監視しにくる時や、僕と話をする時。
いつもは白い方にいる。


僕は正面の棟を白い方と区別していた。


理由は単純に明るいから。


ここみたいに薄暗く無くて電気が沢山ある。

暮羽さんは今日は多分ここにいる。


そんな気がして四階でエレベーターを降りた。


一番奥にある細かくカマキリのような模様が彫られている真っ黒い扉の前まで歩いていき、威圧的な黒い壁をノックしようと腕を持ち上げようとするが僕の腕はピクリとも動かなかった。


身体中の血液が冷たい水のように感じる。


もうすぐ初夏を迎えようと言うのに何でこんなに寒いんだろう。


背中に流れていく汗が気持ちわるい。


身体を無理に動かすことは止めて、扉の右上部にはめ込まれている丸いレンズに視線を合わせた。


暫くそうしていると目の前のドアがガタガタと音を立てながら横に開き始めた。

少しずつ開かれて行く扉の向こうに…デスク越しに昔と変わらない笑みを浮かべる男の姿が見えた。