「やっと思い出した?」

呆れきった顔で言った秋乃に頷く。

確かに、これは呆れられるわ。

年中顔を突き合わせてるやつの名前を忘れてたりしたんだから。

「で、付き合ってるの?」

「…知らない」

というのがあたしの返事で、それ以上このことについては聞くなという意思表示に変えて、あたしは卵焼きを口の中に突っ込んだ。

思い出すだけで腹が立ってくる。

「あたしがあいつの世話を焼いてるだけ。
 だからあいつは、あたしのことなんか、無料のハウスキーパーくらいにしか思ってないと思う」

むっすりと答えたあたしに、秋乃は、

「貴音は好きなの?」

…なんて、余計なことは聞かなかった。

ただニコニコ笑ってたから、多分、あたしがどう思ってるのかはばれてる。

だから聞かなかったんだろう。

代わりに、

「ああ、夏野くんって一人暮らしなんだっけ?」

と聞いてくる。

「そう。
 あいつんとこのおじさんとおばさんが夫婦して海外出張中なの」

「海外って…何の仕事?」

「……商社勤務のはずだけど」

つうか、もう質問は勘弁して。

学校に来てまであいつのことなんて考えたくない。