「貴音ってやっぱり、夏野くんと付き合ってるんだよね?」

昼休み、唐突にそう聞かれたあたしは、真顔で返した。

「…夏野って誰だっけ?」


正直に言うと、あたしは長い長い夏休みが明けたばかりだったせいで、少しばかり呆けてた。

というか、夏休みの間中一度も使わなかった呼称を使われて、とっさに思い出せなかったって言うべきかも知れない。

誰だっけ、と返された秋乃は、アハハと乾いた笑いを響かせ、

「冗談、だよね?」

「いや、本気で。
 誰だっけ? それ」

「貴音ぇぇ……」

あんたって子は、あんたって子は…と唸る秋乃にあたしは必死に頭を働かす。

夏野、夏野……。

担任は斉藤だし、学年主任は山辺だ。

クラス委員は安城と咲枝…って、あ、男だけ思い出せばいいんだっけ。

他にあたしが親しい男子って言ったら………。


「あ」


あのばかのことか。

休みの間中てこずらせてくれたばか。

休みが終ってもまだ迷惑ばかり掛けてくるやつ。

そういえば、あいつの名前は夏野 新って言うんだった。

全然呼ばなかったから忘れてたわ。