僕と君の間にはいつも時間差が生まれる。

例えばオンボロのテレビを一緒に見ていると、僕の笑い声の後に少し遅れて君が笑う。

変わっていると思うかもしれないが、僕はその瞬間が好きだ。

一緒に笑う時よりも君の笑顔を独り占めにできるから。

明るい色のミディアムパーマに色白の肌とそばかす。

くりっとした丸い瞳はどこかの子犬を思い出させる。

笑うと小さな八重歯がひょっこりと顔を出して、見ているこっちはなんだか幸せな気分になってしまう。

そんな不思議な魅力を持った彼女。


「千秋の耳は聞こえないの」


初めて会った時、彼女は僕にそう言った。

いや正しくは彼女のメモ帳にそう書いてあったんだ。


「生まれたときから耳が聞こえないの。だからうまく話すこともできない。それでも友達になってくれる?」


その時、僕は感じたんだ。

可愛らしい字の奥には、彼女の悲しみや孤独が隠されていることを。

彼女がそれまでどんな過去を過ごしてきたのか分からないけれど、僕はなんだか彼女のことを放っておけなかった。

それが同情かと言われると少し違う。


「君が聞こえようと聞こえなかろうと関係ないよ。僕は君と友達になりたい。もっと君のことを知りたい」


決して上手くない字で答えると彼女は嬉しそうに微笑んだ。

そしてこの瞬間、僕は君に恋をしてしまった。