「あら、このサボテン……」


目を赤く腫らした女性が、こじんまりとした病室で荷物の整理をしていた。
そこでふと目に止まった、サイドテーブルに置かれたサボテン。
ずっと前にプレゼントしたその植物は、主のいなくなった部屋で寂しく在った。
しかし以前とは違って、その小さな植物は、頂点に黄色く花をつけている。
いつ咲いたのだろうか。
あの子が見たら、きっと喜んだに違いない。


「大切にしていたものね」


瞳を閉じれば瞼の裏には可愛い我が子。
この部屋でずっと治療を続けていたけれど、今はもう返らぬ人となってしまった。
その子が大切にしていた、小さなサボテン。
サボテンは人間の言葉が解るらしいと話すと、その日からあの子はこの植物に話し掛けるようになったのを鮮明に思い出す。
それに続くようにたくさんの思い出が蘇り、自然と溢れた涙にツンと鼻が痛んだ。


「……あの子の話し相手をしてくれてありがとう」


母親はそっとサボテンの花を指先で撫でると、瞳を細めて笑い掛けた。
その笑みは少女のものに似て、とても綺麗だった。



(「わたしが死んだら

  その時は、」)





き れ い な は な を

さ か せ て 。



――……約束、守ったよ



end