──失敗したな、そう思った。


今日は連日より暖かい方だけど、学ランの中にロンT一枚だけじゃぁ、寒い。


あーぁ、もっと分厚いの着てくりゃよかった。


完全に失敗だ。


──でも、今おれの目の前で顔を林檎みたいに真っ赤にしてるこの人は、寒さなんか微塵も感じてなさそうだ。



「──好き、です……!」


古びた校舎の裏側。

立ってるのは、おれと、この女の子と、枯れ木だけ。


「──ごめん」


おれの声は冷たい空気に溶け込むことなく、クッキリと響いた。


目の前の名前も知らない女の子が、酷く傷ついた顔をする。


そんなことで『ヤベッ』と焦ってしまうおれ。


「あー……おれ、キミのことよく知んねぇからさ。……ごめんな?」


咄嗟に真顔を崩し、なるべく優しい声でそう付け加えた。


「……じゃぁ!友達から、じゃ……ダメですか?」

「あぁ。それなら全然いいぜ」


おれがニカッと笑うと、女の子もホッとしたような笑顔を浮かべた。


「……優しいんですね」

「いやいや……つかタメ語でいーから。一年だろ?」

「うん、ありがとう!あたし、佐藤 アヤ。じゃあまたね、ユウイチくん!」


おれが自己紹介する間もなく、女の子は走り去っていってしまった。


「……『優しいんですね』ねぇ」


取り残されたおれはそう呟くと、少し吹き出すように笑った。


さっきの女の子──アヤにこう言われた時、本当はもっと全力で否定するべきだったのかもしれない。


だっておれは、全然、ちっとも、優しくなんかないのだから──…。