「……え?なんか今一瞬だけ、黒いもの見えなかった?」

「えぇ、錯覚じゃ?てかキス長くない?」

「なんだか王子役の人、もがいているような……」


ザワザワと客席が盛り上がる中、おれはと言うと……


「〜ッ!!」


アスカとキスしてました。


唇が、分厚い唇に包まれて。

視界いっぱいに広がる、ぶっとい眉とほっそい目。

荒い鼻息。


ぎぅあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぉぉぉぉぉぉぅぅぅぅぅぅぁぁぁぁ!!


もうマジで大パニック。


唇が!唇が!


ぶよぶよした生温い感触が気持ち悪すぎて、男のくせに涙目なおれ。


箱の縁を手で押さえアスカから離れようとするが、首に巻き付いたおさげがそれを許さない。


生き地獄……。


なんてことだ……汚れてしまったんだ、おれの体は……。


ああ、マイボディー……可哀想な、マイボディー……。





──哀れ、顎長姫に捕まえられた王子は、肉体的・精神的暴力に耐えるしかないのだった。

それこそが、姫の生け贄に選ばれし者の悲しき宿命なのである──。





顎長姫-アゴナガヒメ-【完】