翌朝、昨夜の不良に無理やりディープキスされた出来事が愛梨の脳裏によみがえってきた。



愛梨は起きるやいなや、洗面所に駆け込むと忌わしい感触を拭【ぬぐ】うかのに、幾度もうがいをしていた。




「お嬢様、これをお使い下さい。」


愛梨は声をした方へ振り返ると、坂上がコップを差し出していた。


「なに、これ?」


「うがい薬です。」



愛梨は、コップを受け取ると、口の中に含ませた。


含ませたものから一気にペパーミントの味と香りが広がった。




それで昨日の出来事が消えたわけではないが、愛梨は坂上のささやかな心遣いが嬉しかった。




「ありがとう。」

坂上の目を見つめながら、小さな声でお礼を言った。



微笑を浮かべた坂上の瞳には、既に黒いコンタクトが装着され、新しい眼鏡をかけていた。