まさかこのタイミングで佐野君から、
優の名前が出てくるなんて思わないでしょ?



だからその名前を聞いただけで、
無防備なあたしの涙腺は一気に壊されてしまった。



俯いて流れる涙に気づかれないよう、拳を額にあわせる。



でもその行動は全く無意味で、
佐野君は静かに千夏の家から出てってしまった。




「おいで」



柔らかくやさしい声がして、
手を引かれていく。


その手に逆らうことなく付いていき、
たどり着いた千夏の部屋。


飲みかけのコップがあるのを見て、
2人の邪魔をしてしまったと罪悪感を感じてしまった。




「だいたい話はわかるから。正樹でしょう?」



ローテーブルの向かいに座り、
飲みかけのお茶を一気飲みした千夏。



「だいたい話はわかる」って・・・・
なんで知ってるの?



涙を拭いながら千夏を見ると、
少し困った顔をしていた。



「実は正樹、ずっと愛が好きだったの。
だから小倉君が気に入らなかったんじゃ
ないかな? 


ずっと好きだった人を盗られたみたいで」



盗られたなんて・・・・・・

そんなのあたしは知らなかったのに、
どうしたらいいのかなんてわからないよ・・・


それにあたしの事好きなんてことも全く気づかなかった。