慌てて水中から拾い上げ、ボタンを押しまくりましたが、反応はありません。

水の中に落とした携帯は、乾くまでボタンを押さないほうがいいと知ったのは、

メモリーの復元が不可能だと携帯のショップで教えられたのと同時でした。

その日、私は新しい携帯を買い、覚えていたりメモしてある分の友人たちのメモリーを打ち直し




マキトのメモリーだけは打ち込みませんでした。




そしてその日から、私はこのベンチに座るのも、マキトからの連絡を待つのもやめました。

さて、今の私は少し曇った夜空を見上げ、おぼろげな月を挟んでマキトとソウタロウさんの顔を思い浮かべます。

「あの日にあきらめたはずなのになぁ」

そう呟く私自身、今日の今日まであきらめたと思っていました。