「と、いいますと…?」

「実はこの店、初めてです。こんなオシャレな店…」

微妙に話が変わったような気がするが、こんなことはマキトで慣れっこでした。

マキトだったらこの後、本当に別の話をするんだけど、多分この人は違う。必ず、本筋に戻ってくると思いました。

「今日、ケンジに言われたんです。『あそこのイタメシ屋味もムードも抜群だから、ミヨちゃん誘って行けよ』って」

ああ、やっぱりか。私はなんとなく自分の推理が当たったことが嬉しくなり、心の中でガッツポーズをしてしまいました。

「僕は、オシャレな店も知らないし、自分から女性を食事に誘うような根性もない男です」

ソウタロウさんが何を言い始めたのか、やっとわかってきました。

だからこそ、私は黙ってそれを聞きます。この人の決意を、邪魔したらいけないと思いました。

「それでも、この前やっと想いを伝えることができました。薦められたとはいえ、こうしてお食事に誘うことも」

さっきまでの不安げにキョロキョロしていた表情が、仕事中のように真剣なものに変わっています。

ちょっと、見惚れてしまいましたが、頭の隅にマキトの顔が浮かんで、それを振り払うことで冷静になりました。

「あなたのためになら変われます。もう一度改めて、お酒が入る前にきちんと言わせてください」