アペリティーヴォとかアンティパストとかわけのわからない単語を右から左へ受け流していた私でしたが、

どうやらそれはソウタロウさんも同じだったようで、二人で一番ベタな、食前酒から始まってコーヒーで終わるコースを選びました。

私は、料理が運ばれて来る前にそっとソウタロウさんを見ます。

メニューを奪われ、目のやり場に困った彼はキョロキョロと店内を見回しています。

おそらく、本人もこの店は初めて来るのでしょう。大方同僚に教えられて「ミヨちゃん誘って行って来い」とかそんな感じでしょうか。


「あの、すいません、返事は後でいいなんていったくせに、その、今日誘っちゃって」

「いえ、そんなことないですよ」

何がそんなことなのかはわからないが、当たり障りのない返事をしておきます。

「あの後、家に帰って考えたんです。僕はその、想いを、ミヨさんに伝えましたけど」

「はい」

「ミヨさんに返事をするだけの材料を与えていないんじゃないか、って」