彼は回りをキョロキョロと見回します。誰もいないのを確認するかのように。

でも、終業時間からまだ間もないこともあって、部屋の中には幾人かが残っています。

とはいえ、多分ほとんどの人がソウタロウさんの私への好意を知っているのでしょう。

見て見ぬフリというか聞かぬフリというか、とにかく私達二人にわざと無関心を装っているようでした。

時折目線がチラチラとこちらに来るのを感じていたので多分、間違いありません。

みんな他人の色恋沙汰が好きだなあと私は呆れていましたが、ソウタロウさんはおそらくそれを、

本当にこちらに無関心なのだと思ったらしく、声を小さくしてさっきの続きを私に告げました。

「あの、すごくいいレストランがあるんですけど、夕食、ご一緒しませんか?」

この人も存外ストレートだなと思いましたが、ユキさんのように、たくさんの言葉の中から選んでいるというよりは

もともとその言葉が一番最初に浮かんでいるという印象でした。