恵弾は茶を口にした。静かに茶碗を置くと、手巾で口を拭う。
「働けばよろしい」
「働く?」
「人が動くところをご覧になるのではなく、自らが体を動かせば気は晴れる」
 暁晏は頷いた。
「だが、働くとは」
「一国の姫君だから蛇殺し草の毒に侵されたのではない。一個の人として、市井の者と同じ人として、ご自身の命と向き合うことが必要ではありませんか」
「それで、働くか」
 そう言って低い声を出し、暁晏は思案した。今度はちびちびと茶碗に口を付けている。表情は暗い。

「暁晏さん」
 恵弾は呼びかけた。
「それは、いつまでに返答しなければいけないものなのです」
 その声色から、恵弾の心配を読み取った暁晏は、片頬を上げて見せる。
「なに、今すぐ答えないと命に関わるようなことはない」
「薬草を煎じながら考えても間に合いましょうか」
 これには、暁晏は息をこぼして笑った。恵弾なりの精一杯の冗談であるからだ。
「もちろん」
 二人の医者はそれからまた言葉を交わし、それぞれの湯呑みを空にして、同時に席を立った。