恵弾は手紙を畳み、懐に仕舞った。受け取ることは出来ても、任意に私信を発することは許されていない。幾重もの面倒な手続きを踏まねばならない。何日か前に、その面倒な手続きを踏んで短い便りを出した。「恵孝の身の無事を祈るばかりである。しかし、我が身に於いて便りの無いのは良い便りと心得られよ。」と。

 暁晏は周りを見渡した。大怪我の者の処置は一しきり終わり、高熱を出した者達は順調に回復している。急を要し、予断を許さない事態は、一事を除いて終着したと言って良いだろう。集められた医者達は蛇殺し草の毒を解す薬を作り出すか、その治療法を見つけるかが求められている。時間の掛かること、城での生活は決して強く束縛されてはいない。食事を摂る時刻も厳しく定められてはおらず、食堂にいる人はまばらだ。それでも暁晏は声を潜める。
「姫のことだ」
「痛幻薬は一刻も早く止めた方が良い」
「違う」

 暁晏は、先日の姫との会話を伝えた。
「退屈しのぎと言えば聞こえが悪いが、つまりそういうことだ。何か案はないか。一人で考えたが、思い付かない」