恵孝は目を丸くした。
「薬は初めてなのか」
「昨晩も言っていたが、薬とはなんだ。話だと、病を治すのに使う道具か何かか」
 飲みたくないから言い逃れをしているのかとも思ったが、恵孝にはうさぎの表情は読めない。素直に受け取り、教える。

「草木の持つ力で、体の具合が悪いのを治すのだよ。僕達の体には、もともと怪我や病を治そうとする力があるけれど、それをもっと早く治したり、あるいは体を強くしたりするのに使われるものだ。組み合わせや量を誤ると、かえって体の害になることもある」
「毒ではないか」
 恵孝は笑いながら、指先に薬を取り、そのまま口に含んだ。やはり苦いが、苦いだけだ。

「平気さ。うさぎが食べると良くないものは入っていないのは、一緒に見ていただろう。さ、そのくしゃみと鼻水を止めたいのかな。鼻水が出るのは格好悪いんだろう。格好悪いままでいいのかい」
 幼い子供に薬を飲ませるときのような文句を使う。うさぎはしぶしぶ、器に口を付けた。やはり苦いのか、飲み込むのは時間がかかっている。
 その様子を見ながら、冷めた芋を口に入れた。進むことが肝要の道のりだ。速度は問題ではないらしい。この白い生き物は、人語を解し、意識を失って岩壁から落ちそうになった自分を引き上げたのだと言う。深仙山にすでに足を踏み入れているそうだ。芋を食べ終えたら、火を片付け、また歩きだせばいいのだ。