「何かないかしらね」
 侍女が恭の額の汗を拭った。気丈に見せているが、痛みを堪えているのは暁晏にも侍女にも明らかだ。
「この退屈を紛らすようなこと」

 踊りを見るとか、歌を聞くとか。侍女は思いついたことをいくつか挙げたが、恭は乗り気ではない。
「どれも良い気晴らしになりましょう」
 暁晏も侍女の言葉を支持した。

「先生も、」
 恭は鼻で笑った。
「酷いことを言うのね」
「姫様」
「先生はおいくつになって?」
 唐突に年齢を訊く。それで暁晏は気付いた。己の迂闊さに内心舌打ちした。恵弾ならばこんなしくじりはすまい。
「次の春で五十五に」
「お好きなことは?」
 苦しい問答だ。言わんとしていることは見えているが、それを呑んで応じるしかない。
「甘いものを食べることが」
「結構ね……私は」

 侍女の肩が震えている。

「桟寧国第三代国王章の娘恭、歳は十六、余命は二年。一体、この私にこれから何をしろと言うの? 二年後の今日の日には、私は生きていないかも知れないのよ?」
 恭の声が熱を持つ。
「歌? 踊り? そんな、まだまだ先のある人が躍動するところを見て何になると言うの」