男はそれを自分の耳に付けた。そのまま、恭の耳元で囁くように歌う。

『満月の夜、月光を浴びること三刻
 さすれば月天子、汝を見つけ、迎えに来る』

「月天子、それが貴方の名前?」
 恍惚としながら、恭は尋ねた。宴の喧騒は遠い。
「そのようなものです」
「月天子、すなわち月。貴方は天に住んでいる方なのね。だからそんなに美しいのね」
 おとぎ話にはそうあった。だとすれば、そこは不老不死の世界。

「私を拐ってくれて?」
 もう一度、口にする。
 耳元に、またあの歌が聞こえた。

『満月の夜、月光を浴びること三刻
 さすれば月天子、汝を見つけ、迎えに来る』

 強い眠気に襲われ、その後のことは覚えていない。侍女に呼ばれて目を覚ましたのはまだ宴の途中であったが、あの赤眼の男の姿はどこにもなかった。片方の耳飾りはなくなっていた。幻ではない。あの男はここにいたのだ。