第十の月 二十一日

 大河を渡って、北へ三日、東へ二日、もう一度大河を越えて、西へ四日、更に北へ六日。
 頭の中で何度もその言葉を繰り返し、恵孝は歩みを進める。しかしそれは、大いに矛盾を孕んだ行程だ。街の北側を流れているのは、大河の支流であって大河そのものではない。
 その支流に架かる大橋を越えて、支流に沿った広い街道を恵孝は北へ横断した。街道はかつての大河の川筋なのだ。『神仙山記』の頃から大河は氾濫を繰り返している。川筋も幾度か変わって、本流はより北になった。河を越えることに囚われず、方角と日数に従えと祖母は言った。
 道無き道であっても、進め。連なる山の稜線が視界の果てに広がっている。

 宿を取ることもあれば、野宿することもあった。昼は日差しが温かいが、秋の夜は冷える。道端に体を温める作用のある薬草を見つけては摘み取り、努めて服して寒さを耐えた。
 父は息災だろうか。歩くときはまずそのことが気に掛かる。そしてあの人のことを思い出した。