恵弾に付き添っていた兵の一人が、明千の部屋を出て駆けて行く。「不治の病を治す薬」の存在を、王に知らせに行ったのであろう。

「そんなことを信じてどうする。まさか、軍をその薬の捜索に宛てるというのか」
 明千は、ふ、と息を漏らして笑った。恵弾が瞼を開ける。
「当たらずとも遠からず、であろう。夜分の足労、感謝している。……武人には、金より金創薬の方が、礼としてふさわしかろう。後日届けましょう、失礼」
 くるりと身を翻し、恵弾は明千の部屋を辞した。胸の内を読まれたのを再びの苦笑で紛らわす。

 夜着に着替え、部屋の明かりを落とす。窓から十七日の月の光が差し込んだ。明千は月に背を向けて寝床に横になる。瞼を閉じると、あの夜の様子がそこに映る。命の価値の差をまざまざと見せつけられた、その悔しさに歯を食いしばる。