「爺様、」
 見送りに来た母と祖母にも振り返る。
「母さん、婆様。どうか」
 恵孝は頭を下げた。
「無理はなさらず、体に気をつけて」

 母の、鼻をすする音が聞こえた。
「お前も、道中気をつけて」


 恵孝は自身や家族の先の不安で体が押し潰されそうだった。恵正は抑えられないほどの憤りを王に感じていた。富幸は夫と息子がいないことで、今にも倒れそうな程に思い詰めている。丹祢は、夫や息子や嫁や孫が、それぞれの心に抱えているもののために体を壊さないかが心配だった。

 そんなことなど関係なく、空は雲なく晴れ渡っている。
 恵孝の背中が見えなくなっても、残った三人はその方向を見つめていた。


 もうすぐ、日の出だ。