「童歌は、確かに伝え継ぐべき価値のある伝統。他国の歌にしろ……現との見境のつかないような娘に育てたのもまた、予である」

 自業自得、その言葉が皆の頭をよぎる。
「姫は、どうなるのですか」
 侍女の問いに、三人の医者は口をつぐんだ。さすがに恵孝も、それを言わないだけの分別はある。

 脚の傷跡は一生消えまい。いや、それ以前に。
「持って、二年」
 意を決し、暁晏が口を開く。

「毒が姫の心臓に達するまでに少なくとも一年はかかりますが、長くても二年の間に」
 命が尽きましょう、と暁晏の声は尻すぼみに消えた。侍女は口元を手で隠すが、涙がその手の甲を伝う。

「毒は消えぬのか」
 章王の声が震える。寿命が縮むにしても、一国の姫の、まだ十六の少女の未来はそれほどに限られているのか。

「私共は、その術を存じませぬ」
 暁晏は、もしかするとと思い、城下町で代々医薬を扱っている杏家の恵弾を呼んだのだった。宿居番の持ち回りは、城にも届け出ることになっている。