昂礼は、分かっていたのに謝礼をその場で受け取ろうとしたと、こっぴどく叱られた。往来のど真ん中で、城下町の誰もが知っている産婆の貫那が、『街の子』の昂礼を叱り、そこに御典医の枋暁晏がいる。これが道行く人々の耳目を集めぬ訳がなく、貫那の説教が一段落つくころには、人垣の間から全元が顔を出していた。昂礼を引き取りたいと言っている、宿屋の樹全屋を営む全元である。
「どうしたんだ、昂礼」
 全元の顔を見ると、昂礼はいっそう肩を落とした。
「自分で話しなさい」
 貫那が促す。昂礼は、経緯を話した。全元の額に青筋が浮かんでいく。
「……ではお前は、枋先生がご存知ないと思って、金を騙し取る積もりだったんだな」
 昂礼は唇を一文字に結ぶ。微かに頷く。
「今日、枋先生を送ったら、そのあと一月はうちで働いてもらうよ。あとはそこで話そう。貫那さん、良いね」
 貫那は、ああ、と首を振った。全元は、辺りを見回し、町衆の主だった面々を見つけては確かめていく。
「さあ、これでお前が他所をほっつき歩いていたら、それは約束を違えていることになる。町の者で、お前を見ているよ」
 消えそうな声で、分かった、と昂礼は吐き出した。そして俯いたまま、暁晏の馬の手綱を持つ。
 貫那は暁晏を見上げ、手招きした。背が低い貫那に合わせるため、暁晏は腰を屈める。
「悪かったね」
 耳元で小さな声で言う。
「いや、謝るのはこちらの方だ……です。迂闊でした」
「今、姫様のことで大変なんだろ。杏の大先生を尋ねるのも、その事だろう。忘れていても無理ないさ。二つ頼みがある」
「何でしょう」
「一つは、昂礼に謝らないでおくれ。あの子、言いたいことをたくさん飲み込んでいるようだが、やはり騙そうとしたのは変わらない。昂礼がここで失った町衆からの信頼を、きちんと取り戻さなければ、昂礼が一人で生きていくときに、私達はあの子を信じられない。もう一つは」
 貫那はいっそう声を潜めた。
「医者を返してくれ」