満月の次の日に、暁晏と恵弾が言葉にしなかったこと――姫の余命が限られていることを伝えた恵孝が今、王が求めている薬を軍よりも一足先に求めに旅立ったことを、王はどれだけ気にかけているだろろうか。軍の捜索隊の帰還は心待ちにしているだろうが、それは薬の到着を待っているのであって、では隊の無事の帰りにはどれほど心を配っているのだろうか。城に囚われた医者達には、時おり暁晏を通してその言葉、薬の完成を急がせる言葉が届くが、医者である前に人である私達を見ているのだろうか。
 王への不満、不信を抱くのは、自分が不安だからだ。頭では理解している。恵弾は自分にそう言い聞かせる。言い聞かせながら、口を動かして食べる。
 便りのないのは良い便り。そう富幸には伝えたものの、安否を知る方法がないのはやはり辛い。今日の仕事が終わったら、面倒な手続きなどとは構わず、家に文を出そう。自分よりもはるかに不安で、心細い思いをしているのは富幸だろう。その肩を支えてやりたいと恵弾は思った。

 それきり黙ってしまった恵弾が、まるで砂を噛むような顔で朝食を食べ終えるのを、暁晏は見届けた。一人息子が、一人きりで山にいることを、周りに言うような恵弾ではない。ましてやあまりにも不確かな道を進んでいることを。
 同じ医者として、いや、旧くからの友人として、苦難を共に耐え忍び、お前を励まし続けよう。暁晏は、恵弾の背中にそう誓った。