カタン、カタン、と機織りの音が続いた。
 綺与は燭台に油を足した。広い作業場の中、その一台以外の織機は、覆いがされて一日の仕事を終えてゆっくりと休んでいるように見える。明日は六日に一度の休みだ。店子達も、織機も、のんびりと過ごす。
「里登、もう終わりになさいよ」
 織り子に声を掛ける。里登は「はい」と返事をしたものの、腕と足を止めない。里登のいる織機には、真っ白な糸が掛けられていた。そこは昼間、恭姫が座っていた場所だ。
 織り上がった布を綺与は手に取った。城から、姫様が来ると知らせがあったのは昨日の早朝、そしてその昼前には姫様が本当にいらした。いくらお城からの命令でもこっちも商売だ、難しいことはさせられない。ただただ杼を左右に動かすこの白い布を織ってもらった。
 この白い布は、晒として収める。医療用の晒だ。傷口を押さえたり、固定したりするのに使う。これまでは町の医者が使うのに注文があったが、医者狩りのあとは注文が途絶えていた。しかし、最近になって別口の注文が入った。
 単純な織りとは言え、そして姫様の筋が悪くないとは言え、姫様は初心者だ。どうしても時間がかかる。納期に間に合わせるため、里登が残って続きを織っていたのだ。

 里登は、大きく息を吐いて手を止めた。
「終わりました」
 袂から手巾を取り出し、汗ばんだ額を拭う。
「ご苦労さま。遅くまでありがとうね」
「いえ」
 糸の始末をし、巻き上げた布を倉庫に運ぶ。里登がそうしている間に、綺与は織機の掃除をして、埃除けの覆いをした。