明千は焚き木を火の中に戻した。芳空も小刀を仕舞って火の前に戻る。
 虫を刺した串を取り、芳空に渡した。芳空からも、木の葉で包んだ芋が渡される。

「確かにうさぎ、お前の言うとおりだな」
 語り部だという杏恵弾の母、つまり杏恵孝の祖母の話では、歩く方角と日数が決まっていた。その通りに歩いたからこそ、あの岩壁にたどり着いた。しかし、うさぎはあちこちと方角を変えながら進んだ。方角はもう頼りにならない。
「悪かった。進むには、お前を頼るしかない」
「だけどよ、なぜお前の姐さんとやらに会うんだ。上官は確か、そうだ、『蛙が持つ妙薬』と言っていた」
 芳空の口の端からは、虫の頭が見えていた。焼くと海老のように香ばしい。
「お前の姐さんというのは、まさかその蛙なのか?」

 背後の草むらが動き、そこからうさぎが姿を見せた。うさぎは、確かに頷いた。
「この山に、俺よりも先に住んでいる蛙だ。だから俺は、姐さんと呼んでいる」