同じような焚き火の跡を、岩を登る前の道中で二三度見かけた。二人の行く先を通る者がいる。つまり、杏恵孝がここを通った証だ。

「起きたのか」
 ぴょこんぴょこんと跳ねながら、あのうさぎが現れた。
「どこだここは」
 芳空が尋ねた。
「案内しろと言ったのはお前達だろう。もう山に入っている」
「あの焚き火の跡は何だ」と明千は続けた。
「お前達より先に来たやつが、朝飯を食った跡だよ」
「飯?」
 芳空が大きな声を出したので、うさぎが身震いした。
「杏恵孝は何を食べたんだ、教えてくれ」
 明千は内心馬鹿馬鹿しいと思いながらも、言葉を整えて聞く。うさぎは近くの藪に入り、小さな黄色い花をつけた草まで行って、その根本を鼻で示した。
「この草の、芋を取っていた」
 芳空が慌ててその草を引っ張ると、今は秋だというのに春に取れる芋がごろごろと出てきた。明千も手近にあった同じ草をそっと抜く。芋が現れる。
 近くに湧き水があり、芳空は荷から鍋を出して水を汲んだ。火を起こして鍋を掛ける。その中に、湧き水で洗った芋を入れた。
「あいつは、葉っぱでくるんで火に入れていたけどな」
 その方がすぐに火が通る。明千はうさぎが示した木の葉で芋を包み、火の中に入れた。
 出来上がるのを待つ間、芳空と二人で沢山の芋を掘り、土を落とした。これを逃したら、次にいつ食べ物を見つけられるか分からない。背嚢に入るだけ詰め込む。
 そうこうするうちに、芋の甘い匂いが漂ってきた。焚き火の中に入れた方だ。木の枝を使って取り出し、木の葉を開く。旨そうな匂いが一層増した。