恵正は声を潜めた。
「じゃがな、他の子らはどうじゃ」
 箸を止めた昂礼は、そのまま項垂れている。
「みな、己の居場所を、己を生かす場所を懸命に探しておる。己の役割を探しておる。お前が怠けているとは言わん。お前は街の子の良い兄貴分じゃよ。お前はお前の役割を果たせ」
「はい」
 昂礼の肩を、励ますように叩く。
「よし。それで、お前は今日何をするんじゃ」
「おっさ……全元親方のところで、樹全屋の下働きを手伝います。それから、手習いをさせてもらいます」
「そうじゃな」
 しおらしい昂礼の言葉に、恵正は深く頷いた。だが昂礼は、その裏でにやりと笑う。
「先生、その前に貞陽を呼んで来ようか」
「頼む」と懐に手を入れかけて、笑う。「家の前にいるのじゃ。頼まん」
 昂礼はあどけない、いたずらっぽい笑顔を見せて、食事を続けた。

「無駄足になったねえ」
 茶碗を返しに勝手場に行くと、綺与に声を掛けられた。
「いや、構わん。医者の宿直番が止まっておろう、大事ないか」
「子どもらは元気だし、火事もないから、若衆なんか呑気なもんさ。街の子の相手をしてくれて」
 綺与は手招きして恵正を近くに呼ぶ。食堂を窺い、そこに届かないように話す。

「実はね、恵正先生。うちに、昨日から姫様が来ているんだよ」
「姫様」
 し、と綺与が制す。また食堂の様子を窺ったが、相変わらず賑やかに朝食を食べている。
「何をしに」
「何って、うちで出来ることは一つしかない。機を織っているのさ」