侍女の手から耳飾りを取ろうと腕を伸ばす。が、腕が重く、少し痛む。
「慣れないことをなさったからでしょう。どうしますか、綺与さんと今日も行くとお約束なさいましたが、お休みになりますか」
 恭姫は首を横に振った。
「行くわ。まだまだ途中だもの」
 侍女はまた微笑みを浮かべて頷き、恭姫の宝石箱に赤い宝玉の耳飾りを仕舞った。

 夢のことは覚えていないけれど、昨日の機織りのことははっきりと、ありありと思い出せる。
 糸を縦横に確かに通していく。上下に開いた経糸に、杼で緯糸を渡し、筬で組み込む。その作業を重ねると、少しずつ少しずつ、布が出来ていく。里登の技巧には到底及ばないし、前から機織りをしている年下の者にさえ比べられないけれど、己の手で何かが形になっていく充実感は、今までに感じたことのないものだった。

「もうすぐ、枋先生がいらっしゃいます」
「そうね。膏薬を塗り直してもらわないと」
 恭姫は寝台から脚を下ろした。裾を自分で捲る。そこから覗く右脚の包帯。傷口には独特の匂いがする膏薬が塗ってあるが、匂いはさほど気にならない。添え木のように炭が共に巻いてあり、それが匂いを抑えているのだという。

「姫様、おはようございます」
 別の侍女も姿を見せ始めた。不寝番を務めた侍女は深く礼をして寝室から去る。これから眠るのだ。

 体を清め、髪を結い上げ、今日の着物を選ぶ。作業の邪魔にならないように、あまり膨らみのない袖のものにした。今はどんな着物を見ても、その素材の布がどう織られているのかが気になってしまう。