「次の満月の夜は、晴れると良い」
 男はそんなことまで言う。恭姫はだんだん腹が立ってきた。
「あなたの謝罪はそれだけ? あなた、私の耳飾りを持ち去ったでしょう」
「怒った顔もお美しいことだ。俺は美しいものは嫌いじゃない」
「大声を出すわよ」
 男は苦笑いしながら、音もなく立ち上がった。
「皆、深い眠りの中です。姫ももうひと眠りするとよろしい。その間に立ち去りましょう。」

 恭姫の髪に触れる。腹立たしく思いながらも、不快ではない。恭姫は男の動きに身を委ねる。眠気がやって来る。男の声が遠のいていく。
「楽しそうな夢を見ていらしたようで。腕がこう、動いていましたよ。まあ、ともかく」


 お大事に、と言われた気がして目を覚ました。
 窓の外は明るく、鳥が鳴いている。体を起こすと、何か硬いものが音を立てて寝台から落ち、転がっていった。