「暁晏よ」
 日課の診察を終え、服を整えながら章王は聞いた。
「薬はどうだ」
 暁晏は首を横に振る。
「樹紀の歴史の中で、誰も成し得なかったことの一つが蛇殺草の毒に克つことでございます。医者達はよくやっております。どうぞご寛容にお待ちください」

 章王は細く息を吐いた。感情的になっても物事は進まぬ、陛下は王の威厳を持ってよろしく冷静に努めよ、と梨献士に諌められたばかりだ。
「姫が出かけたな」
「はい。城にも出入りしております、織物屋をご紹介いたしました」
「姫は美しいものが好きだ。美しい布が織られていく様を見れば、心が休まるであろう」

 見るのではなく機を織っている、とは暁晏は伝えていない。
「出来上がっていく布や、それを織っている者達を見ながら、皆、その一日を、その時を、大切にして生きているのだと、お分かり頂きたいのです」
 これは暁晏の本音だった。
 章王は、もっともだ、と深く頷いた。