侍女を伴い、案内と護衛役の兵士に導かれて、恭姫は城下町の端にやって来た。その店に近づくに連れて、とんとんと軽やかな音が大きくなった。やがて店に着く。店の表には「織布 綺」と書いた看板と、その下には色鮮やかに織られた布が提げてあり、朝日を受けて旗めいた。

「おはようございます」
 兵士が呼びかけると、中から女が現れた。兵士と二三言葉を交わす。
「姫様、この店の主です」
 六十がらみの女は、腰を曲げる礼をした。
「綺与と申します。姫様、ようこそ我が店へお越しくださいました」

 綺与が作業場を案内する。中は様々な織機がずらりと並び、そのほとんどに人が座って布を織っていた。
「この布は、お城にも納めているものです」
 綺与に言われて見ると、鮮やかで、複雑な模様の布がその一端を見せ始めたところだ。どんな熟練の職工による技かと思ったが、織機を操っているのは恭姫より数歳年長の女だった。
「夏の式典で姫がお召しになった衣装は、この店の布を使っております」
「あれはこの子が織りました」
 侍女が言い、綺与が続いた。夏の式典とは、桟寧国の建国式典のことだ。恭姫の曽祖父にあたる桟寧が、最後の戦いを終えて戦国時代の覇者となり、建国を宣言した日を祝う。あのときの恭姫の衣装は、朱色の地に、夏に咲く大輪の花々の模様が浮き出るように織られていた。その布で作った着物を纏った恭姫は、まるで花の化身のようだと褒められた。

「あなたはとても優れた才能があるのね。あんなに美しい模様を織れるなんて」
 そのことを思い出し、恭姫は声を掛けたが、女は首を振った。
「私の力ではありません。綺与さんや、あねさんたちがこれまで教えてくれたことを守っただけです。それに、織機職人の兄さんたちにも、随分助けられました」
「そうだったね、あれで織機に細工をしてから、細かい色替えが大層楽になったよ」
「あねさん」
 女の言葉を恭姫は繰り返した。
「ああ、より技術に長けた織り子を『あねさん』と呼んでいるんですよ」