第十の月 二十七日

 朝早く、暁晏は恭姫の部屋を訪う。侍女が取り次ぐと、恭姫はすでに起きていた。別の侍女に髪を結わせている。
「おはようございます、姫様」
 うやうやしく暁晏が言うと、恭姫は目を合わせずに答えた。
「先生、今日はいい天気ね」
「はい。私も、今日は雨も降らず、お出かけに適した日だとお伝えに伺いました」
 侍女に姫の着物の裾を捲らせ、怪我の様子を見る。怪我自体の傷は塞がりつつある。だが傷口から少し、青色の痣が広がっている。毒蛇をも殺す毒を持つから「蛇殺し草」というが、その実はこの毒の広がり方にある。痣はまるで蛇のように見えた。毒が完全に宿主を支配し、死に至らしめるとき、その体には幾重もの蛇に巻き付かれたかのような痣ができる。二年かけて、この蛇はじわりじわりと姫の命を絞め殺す。

 膏薬を塗りなおし、包帯を巻く。
「お出かけになりますか」
 答えは早かった。
「もちろんよ」
「どちらへ行くのです」
 その問いに恭姫は口ごもる。外へ出たいとは言うものの、歌や踊りを見るのは違う。美しい布やそれをあしらった服も好きだが、それは城に運ばせれば良い。

「お決まりでなければ、お薦めしたいところがございます」