城の食堂は夕食の時が過ぎ、人はまばらだ。

「来るだろうと思いました」
 恵弾は苦笑して、向かいの席に座った暁晏を迎える。暁晏は果物をいっぱいに盛り合わせた皿を、恵弾との間に置いた。疲れたら甘い物を食べよ、とは暁晏の信条であるが、恵弾は賛同しない。今宵は果物であるあたり、頭を動かすと言うよりは、思考を整理したいのではないかと恵弾は見た。

 暁晏が手に取り齧り付いた木の実から果汁が飛び散って、恵弾が読んでいた書物のすぐ側に垂れ落ちた。恵弾は書を閉じる。手近にあった布巾で卓上を拭い、それから小ぶりな木の実を摘んで口に入れる。甘酸っぱい。
「恵弾」
「はい」
 暁晏の声には覇気がない。
「私は何を間違えた」
「どういうことです」
「話させるか」
 暁晏がため息混じりに言うが、気にしない。
「はい」
「意地の悪いこと」
「話すことで患者の心が落ち着く。医者は促し、そっと頷く。いつか暁晏さんから借りた書物にありましたよ」
「私が患者か」
 恵弾は躊躇なく頷く。暁晏は思わず笑みを零し、果実を一つ口に放った。