恭姫の部屋に現れた暁晏は、まず恭姫がすでに外着に着替えているのに呆れた。布こそ高価な織物だが、丈夫な誂えで歩きやすい服装である。髪もまとめ、結っていた。内心ため息を吐きながら包帯を解き、傷を診た。膏薬を変え、再び包帯を巻く。熱と脈を測り、顔色を見る。
「今からお出かけになるのであれば、昼にはお戻りください」
「先生ならそう言ってくださると思ったわ」
 恭姫は素早く靴を履き、侍女の手を取る。
「行くわよ」
「あの、姫様」
 侍女は不安げに尋ねた。
「どちらへ」
 恭姫はその整った顔を歪めた。笑っているのか、泣いているのか、怒っているのか、悲しんでいるのか。

 いや、怒っているのに近い。
 この国の姫である自分が、まだ十六の自分が、なぜ余命二年という運命を負わなければならない。この脚の痛みも、意識が遠のくのも、全て腹立たしい。
「どうしたら気が紛れるのか、誰も教えてくれないから、私はそれを探しに行くのよ」
 暁晏を睨む。言葉にするうちに、ふつふつと感情が沸いてくる。
「お父様が医者をたくさん集めて下さったそうだけれど、それが何よ。蛇殺し草の傷よ。もうずっと、遥か昔から、その草で怪我を負ったら死と決まっている。いくら医者が集まったって、誰も私を救うことなんか出来ないのよ」
 姫様、と侍女が手巾を差し出した。体が震え、膝が揺れる。侍女が体を支えたが、その場に泣き崩れてしまった。幼い子どもが転んでしまったときのように、声を上げて。

 泣き声を聞きつけて、王妃が恭姫の部屋を訪れた。母親の膝の上で、なお恭姫は泣き続けた。
 暁晏はじっとその場に立っているしかなかった。その日、姫は結局部屋の中で過ごした。