第十の月 二十六日

 朝方、少し雨が降った。
 右足首はやはり、鈍く痛む。時おり、頭痛のようにぎゅっと血が集まるような感覚がして、そうすると痛みはずきん、ずきんと激しくなった。一、二、三……。目を瞑って十も数えれば、その荒波は鎮まる。
 一昨日から痛み止めの薬を飲んでいない。頭は冴えている。薬を毎日飲んでいた頃の、夢か現かわからない、あの霞かかった時間は訪れない。
 ……八、九。
 波が遠のく。ああ、痛むときが少し短くなったかもしれない。

 恭姫は体を起こした。窓の外が明るい。
「稚宝」
「はい、姫様」
 侍女を呼ぶ。
「雨が上がったのね」
「はい」
「出かけるわ」
 侍女が慌てて顔を上げる。
「どちらへ、お体は」
「そんなに驚かないで」
 恭姫には何人かの侍女がいるが、一番年の近いこの侍女は恭姫の影だ。あの夜もそばにいた。
「先生に、外に出ていいか聞いて。その前に着替えね」
「何をお召しに」
「自分で選ぶわ。久しぶりに夜着から着替えるのよ」