「お前の妹は、知っているのか」
「何を」
「兄貴が、この隊にいることを」
「知らせる暇はなかった。だからこそ、必ず薬を見っけて持って帰ってやるんだ。もし」

 もし、二人して道半ばで倒れたら。行方知れずになったら。

「そうなったら」
 芳空が、言葉を探しながら言う。楔を打ち付ける。
「妹が悲しむからな。俺は絶対に生きて帰る」

 芳空の言葉は乱暴だが、力強い。明千は何だか励まされたような気になって、闇雲に先行きを案じた自分を恥じた。生きるための知恵を働かさなければならない。

 ふと、頭の上に石粒が落ちてきた。風もないのに、不思議に思って明千は目線を上に遣った。
「何だ」
 あと、体が五つほど登った高さだろうか。小さな、白い影がある。
「あれは」
 芳空も明千に倣った。月明かりを受け、光るほどに白い。
 その影が動いた。特徴的な二つの長い耳が見えた。
「うさぎだ」
 芳空が声にした。そして、唾を飲み込んだ。