人の命に優劣はない。
 明千が生まれ育ったのは、城下町ではなく、もっと南の、森と雨の多い村だった。潤沢な水が森を育て、人々は木を切ったりそれを加工したりして生計を立てていた。健やかな者達は森に入り、木の高い所まで登り、生育の妨げになる小枝を落とし、明千が何人もの仲間と腕を伸ばさなければ届かないほど太い木を切り倒していた。力の弱い者や、怪我をして二度と木に登れなくなったような者達は、下生えを整えたり、木の皮を剥いだり、木材を加工して家具を作ったり、あるいは苗木を育てたりした。村にいる者は、皆が皆を必要としていた。繋がり合っていた。誰もが、己に出来ることを精一杯にやり、村の皆で一つの家族のように生きていた。
 雨は、誰の上にも等しく降っていた。木登りが一番早い奴にも、鋸を引くのが一番早い奴にも雨は降り、さっと上がった。そして太陽は雲間から森中に光を注いだ。

 国を統べる者は、雨のように等しく民に目を遣るのだろうと思っていた。ところが、そこには雨に濡れない頑丈で広い屋根と、その中に入れる者と入れない者がいた。
 
 背負った荷から水筒を取り出して少しだけ口にする。水も行軍食も、いつまで持つだろうか。