二杯目のお茶を注ぎながら、富幸は恵正と丹祢に問う。
「父が森を拓き、光召院という建物を作っているのですが、手が足りないそうです。あの子達に手伝ってもらうのは、酷というものでしょうか」
「光召院」
 耳慣れない言葉を丹祢が聞き返す。
 だが、恵正は直ぐに返す。
「やめなさい」

 顔をさっと上げた富幸と目を合わせる。
「奴らが宿居場にいるうちは、儂ら城下町の者は皆で親となって育て上げるのじゃ。酷というのは肉体に酷なのか? 違うじゃろう」
 富幸は頷く。
「些細じゃが途切れることのない、町の店や家々の手伝いをさせる中で、あの子らは己を生かす道を見つける。生きることに、希望を持たせる。梨爺のすることじゃ、人の道に外れたことではなかろうが、お前が躊躇いなく薦められないことを、あの子たちにさせるでない」

「わかりました」
 と答えた富幸の声が思いのほか小さかった。だが、表情はすっきりしている。
「大人のすべきことです。成人前のあの子たちには、はい、手伝わせることではありませんね」
 繰り返し頷く。その様子を見て、光召院とやらについてはあとで恵正に聞いてみようと思い、丹祢はそっと茶を飲んだ。
 富幸の作るものは、卵焼きも、茶も、美味しい。恵弾と恵孝はいつ戻り、この味を共に出来るのだろうか。