恵正が穏やかに言う。
「菜音のときとはずいぶん違うのう」
 それを聞いて丹祢は微笑む。富幸が答えた。
「菜音のお陰で考えが変わりましたよ。血統よりも人にとって大切なことはたくさんあります。貞陽は、何でも頑張ってやろうとする子です。少し抜けているところも、見ていて恵孝の小さい頃を思い出します」
「そうじゃな」
「あの頃は、恵孝の子育てと梨家の母の看病で手一杯で。街のことは何も見えていませんでした。菜音がうちに来てくれて、「街の子」をやっときちんと見られるようになりました」

 恵弾に嫁すまで、富幸はほとんど城下町を歩いたことがなかった。神官を務める梨家に生まれた富幸には、家がなく、親もなく、のら猫が身を寄せるように生きる「街の子」達を哀れと思いこそすれ、手を差し伸べ、暮らしの糧となる仕事――多くはささやかな手伝いであっても――を与えようとは思わなかった。
「今、宿居場にいるのは、貞陽とあと男の子が一人、それから女の子が三人だね」
「一番賢いのは誰じゃ」
 久しぶりに話が弾む。未来のある子どもの話題は楽しい。