「診療の時間を、短くしませんか」
 丹祢が言う。
「診療の時間だけでなく、店を開ける時間も短くしてもいい」
 恵正は答えず、手を動かした。表情が険しく見えるのは、灯りの当たり方のせいだけではない。

「恵弾や、働き盛りの医者はお城にとられてしまった。人手が足らず、宿居番も止まっている」
「そうじゃ。儂が引っ込んでいる場合ではない」
 声が硬い。丹祢は続ける。
「このまま無理をして続けて、恵正さんが身体を壊したらどうするんです」
「無理など」
「無理をしているんです。恵弾と恵孝と三人分だけでなく、回りの医者の分も休み無しに働いて、この十日程で、私には恵正さんが十も二十も歳をとってしまったように見える」
 丹祢が徐々に語勢を荒らげる。
「医者に休み無しと言ったのは丹祢じゃろうが」
「では休み無しに働いて、自分ばかり年老いて、私より先に死ぬおつもりか」

 恵正が顔を上げる。丹祢と目が合う。丹祢の瞳が濡れている。
「恵正さんがいなくて、恵弾が戻れなければ、帰ってきた恵孝はどうなります。大事な息子と孫を、一緒に迎えようとは思われないのか」
「丹祢。儂はそんなつもりでは」
「いいや、恵正さんがやろうとしていることは、そういうこと。生きている間に、もう家族の葬式は出したくないよ」