あ、と気付いた時には、少し遅かった。
 四つ目の玉子を割っていた。

 それを横で見ていた丹祢は、息を細く吐いた。
「私も」
「え?」
 富幸が振り向く。
「私もね、ほら」
 食卓の上には皿が五つ広げてあり、そこに青菜が載っている。
「気付くと、みんなの分を準備しているよ」

 恵正、丹祢、恵弾、富幸、そして恵孝。五つの皿のうち、丹祢は二つを手元に引き寄せ、そこに載っていた青菜を残りの三つの皿に分けた。
「気を付けているのですけど」
「そういうものだよ。菜音のときだって、ずいぶん時間がかかったじゃないか」
 富幸は、四つの生玉子の入った深皿に菜箸を入れた。一つずつ使って焼こうと思っていたが、全て混ぜてしまう。

「玉子、恵正さんの分を多めにしてやって」
「はい」
「今まで恵弾と恵孝と三人でやっていたことを、一人でやろうとしているから、倒れるんじゃないかとひやひやするよ」
 夕食を準備する手を止め、丹祢は一度店へ向かう。廊下を通って診療所へと続く戸を引くと、その廊下は薄暗い。店へ出るもう一枚の戸を引く。日は暮れ、店の表の戸は閉めている。が、灯りを入れて恵正は薬作りの作業を続けていた。